大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 平成4年(ワ)87号 判決 1994年10月28日

原告(反訴被告)

石井真美

被告(反訴原告)

森下幸子

主文

一  原告(反訴被告)、被告(反訴原告)間の平成三年三月一一四日発生の交通事故による、原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する損害賠償債務は、金二五〇万五二六〇円及びうち金二三〇万五二六〇円に対する平成三年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を超えては存在しないことを確認する。

二  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金二五〇万五二六〇円及びうち金二三〇万五二六〇円に対する平成三年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)のその余の本訴請求、被告(反訴原告)のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴通じ、これを五分し、その二を原告(反訴被告の、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 原告(反訴被告)(以下、「原告」という。)、被告(反訴原告)(以下、「被告」という。)間の平成三年三月二四日発生の交通事故による、原告の被告に対する金六四万〇五七〇円を超える損害賠償債務の存在しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴)

一  請求の趣旨

1 原告は、被告に対し、金五六八万七二〇〇円及びうち金五四八万七二〇〇円に対する平成三年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の反訴請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 (本件事故の発生)

(一) 発生日時 平成三年三月二四日午後四時五分ころ

(二) 発生場所 岡山県備前市大内一〇四番地先国道二号線上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(姫路五八な七三二〇)

(四) 加害者 原告

(五) 被害車両 普通乗用自動車(岡山五九に六〇六四)

(六) 被害者 被告

(七) 事故態様 右日時場所において、原告が加害車両を運転して、時速四〇ないし五〇キロメートルで走行中、前方を走行していた被告運転の被害車両がさ止中であるのに気づくのが遅れ、急制動措置をとつたが間に合わず、被害車両後部に加害車両前部を追突させた。

2 (損害)

本件事故による被告の損害は、次のとおりである。

(一) 治療費 一五万五二七〇円

(二) 休業損害 二八万五三〇〇円

(三) 慰謝料 二〇万円

以上(一)ないし(三)の合計額は金六四万〇五七〇円となる。

よつて、原告は被告に対し、原告の被告に対する本件事故による損害賠償債務は金六四万〇五七〇円を超えては存在しないことの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1は認める。

ただし、加害車両の速度は時速約五〇キロメートルである。

2 同2は争う。

三  抗弁

反訴請求原因2ないし4に同じ

四  抗弁に対する認否

反訴請求原因に対する認否2、3に同じ

(反訴)

一  請求原因

1 (本件事故の発生)

本訴請求原因1に同じ

ただし、加害車両の速度は時速約五〇キロメートルである。

2 (責任)

原告は、本件事故当時、加害車両を自己のため運行の用に供していたものであり、かつ、同車両の所有者であるから、自動車損害賠償保障法三条により被告の受けた損害を賠償する責任がある。

3 (被告の受傷)

被告は、本件事故により、頸椎捻挫、腰推捻挫の受傷をし、次のとおり入通院治療を受けた。

(一) 赤穂中央病院

平成三年三月二五日から同月三一日まで通院(実通院日数三日)

(二) 宮本整形外科病院

平成三年四月一日から同年一〇月一六日まで入院(一九九日間)

同月一七日から現在まで通院

4 (損害)

(一) 治療費 一二二万三二〇〇円

赤穂中央病院 四万〇五六〇円

宮本整形外科病院 一一八万二六四〇円

(二) 入院雑費 一九万九〇〇〇円

1000円×199日=19万9000円

(三) 休業損害 二五六万五〇〇〇円

28万5000円×9か月=256万5000円

(四) 慰謝料 一五〇万円

(五) 弁護士費用 二〇万円

以上(一)ないし(五)の合計額は金五六八万七二〇〇円となる。

よつて、被告は原告に対し、本件事故による損害賠償として、金五六八万七二〇〇円及びこれから弁護士費用を控除した金五四八万七二〇〇円に対する本件事故の日である平成三年三月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1は認める。

ただし、加害車両の速度は時速約四〇ないし五〇キロメートルである。

2 同2、3は認める。

3 同4(一)(治療費)のうち、赤穂中央病院の治療費四万〇五六〇円及び宮本整形外科病院の治療費のうち一一万四七一〇円については認め、その余は争う

同4(二)(入院雑費)は争う。

同4(三)(休業損害)のうち二八万五三〇〇円は認め、その余は争う。

同4(四)(慰謝料)のうち二〇万円は認め、その余は争う。

同4(五)(弁護士費用)は知らない。

被告の本件事故による受傷は、頸部捻挫、腰部痛であり、被告には、狭心症、高血圧症の既往症が本件事故当時あつたが、受傷当時の症状からすれば通院加療で十分足りるものであり、入院をした理由は右狭心症など私病によるものである。

仮に安静のために急性入院を認めるにしても、せいぜい一ないし二週間程度で足り、人院加療期間としてはせいぜい二週間、その後二か月程度の通院加療で足りるものと考えられる。

したがつて、休業損害についても一か月ないし二か月を認めるのか相当である。

被告には、既往症として、両変形性膝関節症、左肩関節周囲炎、頸部リンパ節炎があり、右既往症が治療の長期化に大きく影響していることは否定できない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  反訴請求原因1(本訴請求原因1)(本件事故の発生)について

弁論の全趣旨によれば、加害車両の速度は時速約四〇ないし五〇キロメートルであつたと認められ、その余は当事者間に争いがない。

二  反訴請求原因2(本訴抗弁)(責任)は当事者間に争いがない。

三  反訴請求原因3(本訴抗弁)(被告の受傷)は当事者間に争いがない。

四  反訴請求原因4(本訴抗弁)(損害)について

1  本件事故と治療との相当因果関係

証拠(鑑定の結果、甲二の1ないし5、四の1、五ないし八)によれば、次の事実が認められる。

(一)  被告は、本件事故当時、第四、第五頸椎及び第五腰椎に経年性の変化及び狭心症、変形性関節症等の既往の疾患を有していた。

(二)  被告は、本件事故の翌日(平成三年三月二五日)赤穂中央病院整形外科を受診し、頸部捻挫、腰部痛と診断され、自覚症状として全身痛、腰痛、頸部鈍痛があり、他覚的所見としては頸椎の軽度な運動時痛と腰部の圧痛が主体で、神経学的には顕著な異常所見は見られなかつた。

赤穂中央病院では、入院を指示されることはなく、約二週間の加療を要する見込みと診断されている。

被告は、その後、同月二七日、同月三〇日に、赤穂中央病院整形外科を受診したが、自覚症状の多少の変化はあつたものの、他覚的所見に変化は見られなかつた。

(三)  被告は、一人暮らしで、狭心症の既往もあり、家人が不安であることを理由に、平成三年四月一日、宮本整形外科病院に転医し、入院することになつた。

その際、被告は、平成二年中に三回狭心症の発作があり、約一年前から下痢が持続している旨述べているが、自覚症状として、後頭部痛、左頸部―上肢の痛み、腰痛、左下肢のしびれ等を訴え、他覚的所見としては、軽度の頸椎の運動時痛、腱反射の低下、筋力の低下、下肢伸展テストの所見が見られた。

宮本整形外科病院では、平成三年四月八日にはアレルギー性鼻炎、同月一九日には両変形性膝関節症、同月二三日には胃潰瘍、同年五月二五日には頸部リンパ節炎、同年七月二五日には左肩関節周囲炎の診断が追加された。

(四)  その後の宮本整形外科での入院期間中、自覚症状が次第に強くなりかつ多彩になつているが、平成三年一〇月一六日退院した。

以上の事実が認められる。

右事実をもとに判断するに、右宮本整形外科病院での入院治療については、被告の既往症が大きく係わつているというべきであり、本件事故と相当因果関係のある治療期間としては、三か月間、平成三年六月三〇日まで(九一日間)であるとするのが相当である。

被告には前記の既往症があり、これが入院治療の必要性を増大させているものと推認しうるのではあるが、本件における入院治療が既往症のみによつて必要となつたものとは言えず、本件事故が右に影響を及ぼしていることは明らかであり、本件事故と入院治療(右に認定した期間について)との間の因果関係を否定すべき事情は窺えない。

2  右を前提に本件事故による被告の損害について判断する。

(一)  治療費 金一五万九二六〇円

(1) 赤穂中央病院の治療費四万〇五六〇円については当事者間に争いがない。

(2) 宮本整形外科病院の平成三年四月一日から同年六月三〇日までの治療費は、証拠(乙一ないし三)によれば、平成三年四月一日から同月三〇日まで三万七五〇〇円、同年五月一日から同月三一日まで三万七三二〇円、同年六月一日から同月三〇日まで四万三八八〇円と認められる。

被告が実際に負担している差額ベツト代については、被告の症状からしてその必要性を認めることができず、本件事故との相当因果関係は認められず、その余の負担部分については、後記のとおり入院雑費として認められる部分を超えては相当因果関係が認められない。

(二)  入院雑費 金九万一〇〇〇円

1000円×91日=9万1000円

(三)  休業損害 金八五万五〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、本件事故以前に被告は月額二八万五〇〇〇円の収入を得ていたことが認められるから、休業損害としては、入院期間三か月間分である。

28万5000円×3か月=85万5000円

(四)  慰謝料 金一二〇万円

本件における被告の症状等一切の事情を考慮すると、慰謝料としては金一二〇万円が相当である。

(五)  弁護士費用 金二〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、金二〇万円が相当である。

以上のとおりであり、本件事故と相当因果関係のある被告の損害は金二五〇万五二六〇円である。

五  よつて、被告の反訴請求は、金二五〇万五二六〇円及びうち金二三〇万五二五六〇円に対する本件事故の日である平成三年三月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は理由がないから棄却し、原告の本訴請求は、右金額を超えては原告に損害賠償債務が存在しない限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言について同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉波佳希)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例